医局長徒然

7月は我々にとって雨と祇園祭のシーズンです。

本年度は医局長を拝命し、関係各所の皆様からの多大なるご支援に感謝の毎日です。

特に大文字会の同門の先生方には入局希望者をご紹介いただき大変感謝しております。これも皆様が日常から泌尿器科を魅力ある科として実践いただいているおかげだろうと思います。まだまだ募集しておりますので将来大文字会を背負って立つ人材の発掘をよろしくお願いいたします。

また、医局長業務とは直接関係ありませんが、当院における臨床試験への患者さんリクルートにも多大なるご協力をいただき誠にありがとうございます。こちらの方も引き続き募集しておりますので、切除不能な尿路上皮癌の患者さんで治験参加に興味がおありの方がおられましたらお気軽にお問い合わせください。

また、2018年4月には第106回日本泌尿器科学会総会と第16回アジア泌尿器科会議(16th Urological Association of Asia Congress 2018)が小川修会長のもと開催されます。1993年の第81回総会(吉田修会長)以来、四半世紀ぶりに日泌総会が京都に戻ってくると同時にアジア泌尿器科会議もほぼ四半世紀ぶりに日本に戻ってまいります(1991年の第1回の会長が九州大学熊澤浄一先生)。まだまだ先のようでいて、あっという間にやってくるのではないかと思います。こちらに関しても多くの方々のご支援ご協力を賜りますよう、よろしくお願いします。

さて、本年の10月27日(木)から30日(日)にかけて四日市市文化会館・四日市都ホテルにて三重大学・杉村芳樹会長のもと第66回日本泌尿器科学会中部総会が開催されます。

http://www2.convention.co.jp/66uro-c/index.html

10月29日の午後に当学会の前立腺特別企画5として予定されている「前立腺の基礎研究」と題したシンポジウムのパネリストを仰せつかりました。セッションの概要は以下をご参照ください。また私が担当させていただく、「極私的前立腺癌研究考」の発表要旨も合わせて掲載させていただきますので、当日参加される皆様は是非足をお運びいただければと存じます。

 

セッション:前立腺特別企画5「前立腺癌基礎研究」

日時:2016年10月29日(土)14:15〜15:45

座長:溝上敦先生(金沢大学)、石井健一朗先生(三重大学)

演題・演者:

●前立腺の基礎研究を通して得られた泌尿器科臨床における新たな視点

加藤学先生(三重大学)

●アンドロゲン受容体スプライスバリアントを標的とした去勢抵抗性前立腺がん治療の試み

加藤実先生(大阪市立大学)

●極私的前立腺癌研究考

小林恭 (京都大学)

●前立腺癌におけるケモカインの役割

泉浩二先生(金沢大学)

 

「極私的前立腺癌研究考」発表要旨

京都大学大学院医学研究科 泌尿器科学

小林 恭

前立腺癌は、罹患率の高さ、自然史の長さとindolent cancerの存在、アンドロゲン受容体(AR)依存性、腫瘍マーカーPSAなど、疫学的・生物学的・臨床的、あらゆる観点からみても独特の悪性腫瘍であり、公衆衛生の立場から見てもインパクトが大きい疾患であると言えます。これらの多岐にわたる特徴が多様な克服課題つまり研究テーマの源となり、研究者にとって前立腺癌が魅力的な対象となっていることに関しては論を待ちませんが、一方で腫瘍検体へのアクセスの困難さや適切な疾患モデルの乏しさから、長らく十分に研究されてこなかった(understudied)癌種であったこともまた事実です。2000年代に入り、大規模PSA集団検診の結果や、TMPRSS2-ERGをはじめとする前立腺癌関連遺伝子転座の発見、内分泌療法抵抗性獲得におけるARの役割(”Androgen-independent”あるいは”Hormone-refractory”から”Castration-resistant” への転換)、様々なOMICSがもたらした網羅的解析手法の普及などにより、これまで不十分だった前立腺癌に対する理解が飛躍的に進んできた激動の時代を我々は歩んできたと言えるでしょう。

我々日本の泌尿器科の人間は、(時に前立腺癌患者になる前から)前立腺癌患者の診断、治療、(幸い患者さんが治癒すれば)そのフォロー、そして(残念ながら患者さんが不幸な転帰を辿れば)その最期まで関わることも少なくありません。また、前立腺癌集団検診のようにスーパーマクロな対癌施策から、日常臨床における個々の患者さんを相手にした診療、そして実験動物からミクロの細胞生物学・生化学的研究まで研究対象のスケールは様々です。他分野の例に漏れずそれぞれが高度に細分化されていく今日の前立腺癌研究分野の中で、それらの包括的理解とそれに基づく次なる問題の提起が前立腺癌克服という最終目標を達成するためには必要不可欠です。それと同時にこの包括的問題意識を保ちながら研究を進めることができるのは泌尿器科に属する研究者の特権なのではないかと考えています。

このように時・空間的スケールに大きな広がりを持ち、ユニークで多彩かつ日進月歩の前立腺癌研究分野には今でも無数のリサーチクエスチョンが存在し、今後もしばらくは我々を飽きさせることはなさそうです。一方で、研究も人間がやるものである以上、好き嫌い、向き不向き、得手不得手が出てくることは避けられません。その中で、今後前立腺癌研究を志す(かもしれない)若手医師、後進を育成しながら研究を発展させたいと考えている前立腺癌研究者、それぞれがいかにして研究を楽しみながら(時に苦しみを乗り越えながら?)進めていくかについて、限られたものではありますが、自身の経験をご紹介しながら自省・自戒の念も込めて精一杯考察したいと思います。

 以上

それでは現地でみなさまにお会いできるのを楽しみにしております。

小林 恭